イエス・ノーで答えさせてほしい
子供のころから、根暗で無口な性格だ。おまけに人見知りもついて、もはや”歩くハッピーセット”として君臨している。もちろん、私のスマイルは無償で提供できるほど、お安いものではない。お客様から代金をいただき、その結果会社の利益になる。利益を得た会社は、各従業員に報酬を配る。その報酬額に応じて発動するのが、私のスマイルだ。
ともあれ、この性格ゆえに、余計なことを考えてしまうことが多い。近所のコンビニで務める店員の一人に、会計後「レシートは大丈夫ですか?」と聞いてくる方がいる。これに対する答えとしては、「必要ないです」か「もらいます」が適切だろう。だが、私は無口ゆえ、あまり声を発したくないのだ。出来るだけ少ない文字数でことを済ませたい。つまり少なくとも「はい」か「いいえ」で答えたい。
「レシートは大丈夫ですか?」に、直立不動の無表情で「はい」と答えたとする。店員は思うだろう、「どっちだ?」と。
「レシートは大丈夫ですか?」に、大きくうなずき満面の笑みで「はい」と答えたとする。店員は思うだろう、「どっちだ?」と。
「レシートは大丈夫ですか?」という一見普通に思えるフレーズ。しかし、無数にいるレジ店員の中で、ここまでステルス性のある技を繰り出してくる人は珍しい。答えるほうも少しだけ脳みそを働かせなければならない。しかし性格上、店員に指摘することなど出来るはずがない。
視点を変えると、そもそもなぜ「大丈夫ですか?」という聞き方をするのか。これが理解できれば、私のこの悩みも和らぐのではないか、そう考えた。
もしお客さんに、「はい」か「いいえ」で答えさせるならば、「レシートはいりますか?」「レシートは必要ですか?」というような聞き方があるだろう。実に流麗である。滑らかで、流れるような音と音、意味と意味のセッションだ。だがここで気になる点があることに気づいた。「いりますか?」「必要ですか?」という表現には、少しばかりトゲがないだろうか。わずかに上から目線な感じが出てしまう。
そこで、インターネットで検索してみた結果、「レシートはご入用(いりよう)ですか?」という表現がビジネスシーンにおいての正解だ、という情報が得られた。
まず思った。これは間違いなく正解だろうということを。実に正解っぽい単語である。そして、その直後気づいた。「コンビニでは堅苦しい」と。24時間365日、国民によりそって営業しているコンビニ。しかし、ある意味その営業スタンスに反するような印象を与えてしまうように思われる。なんというか、丁寧ではあるが他人行儀な感じがしてしまう。
おそらく、この店員は「いりますか?」「必要ですか?」という表現はあえて避けているのだろう。もしかすると「ご入用ですか?」という表現も、私のように持論があり、知っているけど使ってないだけなのかもしれない。
そう考えると、この店員は、今も悩んでいるのではないだろうか。正しい日本語とコンビニという環境とのギャップで、お客さんに「レシートは大丈夫ですか?」と聞くたびに、精神がすり減っているかもしれない。
それならば、私からアドバイスを授けよう。
レシートは黙って渡してくれ、と。